LOGIN第232話 ゲーム、ついにβ開始!
三ヶ月後。
美月のゲームは、ようやく設計を終え、テストも無事に通過した。
そして昨日の深夜零時から――ゲームはクローズドβテストに突入した。
メイン設計者である杉本と戸田は、昨日のβテスト開始時から、ずっとゲームの状況を監視し続けていた。
深夜は二人で交代し、一人が監視している間、もう一人が休むという体制を取っていた。
それでも、二人が合わせて取れた休憩時間は、ほんのわずかだった。
何しろ、二人とも興奮しすぎて、ろくに眠れるはずもなかったのだ。
しかも、昨夜はそのまま会社に泊まり込み、二人とも家には帰っていなかった。
美月が会社に着いたのは、朝
第234話 諦めなさい、うちの社長は既婚者だ「どうぞ」中から、短い返事が聞こえてきた。卓はドアを押し開け、室内へ入った。だが、オフィスには一人だけではなかった。一瞬、どの人が戸田なのか分からなかった。「こんにちは。高橋卓と申します……」最後まで言い終わらないうちに、戸田がパソコンから顔を上げ、立ち上がった。「高橋さん、戸田です。お会いできて光栄です。さあ、こちらへどうぞ!」戸田はデスクの前まで歩いてくると、卓をソファへ案内した。二人は並んでソファに腰を下ろした。「何かお飲みになりますか?」戸田は、愛想よく尋ねた。「いえ、結構です」――この会社……人は少ないが、どうやら実力は侮れないらしい。「それでしたら、お互い時間を無駄にするのももったいないので、さっそくプロモーションの提携についてお話ししましょう。何かご希望やご意見があれば、遠慮なくおっしゃってください」「……特にありません」そう答えてから、卓はふと思い出したように、何気ない口調で尋ねた。「こちらのゲームは……芸能人を広告塔に起用したりはしないんですか?」戸田は、その質問に少し驚いた。「いえ! うちの会社は、今のところその予定はありま
第233話 あの美人は誰?「え? 六百万円の宣伝費? このゲームを配信しろって?」高橋卓(たかはし たく)は、その金額を聞いて、本当に驚いた。彼はフォロワー五百万人を抱える大手ゲーム配信者で、かなりの収入も得ている。だが、いきなり六百万円ものプロモーション料を提示されたのは、これが初めてだった。「ええ。もしご興味があれば、契約を結んでいただけます」「……それなら、ぜひ!」――六百万円だぞ。かなりの大金だ。断る理由などない。それに、昨夜からこのゲームのβテストをプレイしている。今のところ、操作感もかなりいい。予感がある。このゲームは正式リリースされれば、間違いなく火がつく。一度ハマったら、抜け出せなくなるタイプのゲームだ。投稿したレビューの反響を見れば、それは明らかだ。まさか、自分が書いたゲームレビューが、ここまで大きな反響を呼ぶとは思っていなかった。「今、帝都にいらっしゃいますか? もしこちらにいるのでしたら、契約を交わしに来ていただけます。もちろん、細かい条件については、会社でじっくり話し合っていただいても構いません」卓は少し考えたが、すぐに承諾した。「分かりました。いつ伺えばいいですか?」「四時までに来られるなら、今日で。難しければ、明日の午前十時でお願い
第232話 ゲーム、ついにβ開始!三ヶ月後。美月のゲームは、ようやく設計を終え、テストも無事に通過した。そして昨日の深夜零時から――ゲームはクローズドβテストに突入した。メイン設計者である杉本と戸田は、昨日のβテスト開始時から、ずっとゲームの状況を監視し続けていた。深夜は二人で交代し、一人が監視している間、もう一人が休むという体制を取っていた。それでも、二人が合わせて取れた休憩時間は、ほんのわずかだった。何しろ、二人とも興奮しすぎて、ろくに眠れるはずもなかったのだ。しかも、昨夜はそのまま会社に泊まり込み、二人とも家には帰っていなかった。美月が会社に着いたのは、朝九時だった。入るなり、戸田が興奮した様子で駆け寄ってきた。「社長、βテストのデータ、もう見ましたか?」「まだよ。すぐに見るわ」そう答えてから、美月は戸田の顔を見た。その表情が、今にもねじ切れそうなほど歪んでいた。美月の胸が、ひやりとした。「どうしたの? 何かトラブルでもあったの?」――そんなはずはない。これまでのテストは、すべて問題なく進んでいた。それとも、βテスターの反応が悪かったのだろうか?それも、考えにくい。このスマホゲームは、操作性も非常に
第231話 頭がおかしくなきゃ、こんなことはできない「社長、ネットで桜庭音のファンが騒ぎ始めています……」その言葉に、美月はゲーム設計の画面から顔を上げた。いささか怪訝そうに尋ねた。「騒ぎ? どうして?」――警察は証拠を掴んだからこそ、動き始めたはずだ。まさか、あのファンたちには、まともな判断力すらないということだろうか?「おそらく、盲目的なファンなんでしょうね。年齢も若く、桜庭音の影響を強く受けています。あの子たちは、きっと相手がよほど大きな過ちを犯したからこそ、女神がそんなことをするはずがないと思い込んでいるんです」「中には、『絶対にうちの推しへの濡れ衣だ』と言っている人もいて……大勢で公式サイトに押しかけて、説明を求めているようです」美月は、言葉を失った。「……」――呆れてものが言えない。綾瀬は、社長の様子を何度か窺っていた。美月は、彼女がまだ何か言いたそうなのに気づき、尋ねた。「ほかに何かあるの?」「神崎様が社長とご自身の情報を早いうちに遮断してくださっていなければ、あの偏執的なファンたちは、今ごろ社長のところに『硫酸をかけに行く』と叫んでいたでしょう」美月は絶句した。「……?」――私が時代遅れなのかしら?それとも、あの人たちの考えを理解できない私がおかしいの?「さ
第230話 これはどういう意味だ?綾瀬が退室すると、しばらくして、きっちりとスーツを着こなした一ノ瀬輝(いちのせ あきら)が入ってきた。一ノ瀬にとって、美月と顔を合わせるのは初めてだった。その瞬間、思わず目を奪われた。――この橘社長、うちの看板女優よりよっぽど綺麗じゃないか。一ノ瀬は、これまで数々の場数を踏んできた男だった。これしきのことで、いつまでも呆けているような人間ではない。「橘社長、初めまして。栄振エンターテインメントの一ノ瀬輝と申します。突然お邪魔してしまい、申し訳ありません」美月は一ノ瀬をちらりと見た。とはいえ、八つ当たりするつもりはない。そばのソファを指した。「どうぞ、おかけください」一ノ瀬は素直に腰を下ろした。「一ノ瀬社長、何かお飲みになりますか?」「いえ、結構です」今の一ノ瀬には、飲み物を喉に通す余裕などなかった。彼は、目の前の美月をじっと見つめた。――言うまでもない。この美貌なら、女性嫌いと噂される蓮をして、ここまで夢中にさせるのも無理はない。「一ノ瀬社長、わざわざお越しになったのは、私の顔をじっと見るためではないでしょう?」美月の澄んだ冷たい声が響いた。一ノ瀬は、はっと我に返った。「すみま
第229話 これほどの人材が、なぜうちの会社へ?美月が会社に着くと、綾瀬が歩み寄り、心配そうに尋ねた。「社長、昨日は大丈夫でしたか?」美月は、彼女が昨日の一件を知っていることに驚きはしなかった。首を振って言った。「大丈夫よ」綾瀬は、それを聞いてようやくほっとした。実を言えば、彼女も昨日、この件を知ったばかりだった。その後、美月の電話にはなかなか繋がらず、夜になってからでは、さすがに連絡するのも気が引けた。――今日の社長は顔色もよく、いつもと変わらない様子だ。どうやら、昨日の一件は、社長には何の影響もなかったらしい。実は、心配していたのは綾瀬だけではなかった。戸田と杉本も、美月が出社したと聞くと、すぐに駆けつけてきた。「大丈夫よ。あの人を見た時点で何かおかしいと思ったから、すぐに身をかわしたの。一滴も浴びてないわ」「それは何よりだ!」戸田は、ほっと息をつくと同時に、腹立たしげに言った。「あのクソ野郎、一体どんな恨みがあって、こんな悪辣な真似をしやがったんだ!」杉本も義憤に駆られていた。「そうだぜ。あいつ、あんなものをどこで手に入れたんだ? その入手ルートは、警察に徹底的に調べてもらわないとな。あんな物騒なものを売ってる場所がある限り、次の被害者が出てもおかしくないんだから」本来、ああいうものは厳しく規制されていて、特別な場所でしか扱われないは